「DAO」(Decentralized Autonomous Organization)という組織の構え方をご存知だろうか?「分散型自律組織」と訳され、管理職者を置かなくても機能する組織を指す。この考え方を取り入れて、自社の改革はもちろん外食業界の未来を変えるための取り組みを始めている株式会社MOTHERS代表取締役の保村良豪氏に、その理念や見据える未来像をうかがった。
都心型店舗か郊外型店舗か
- 保村さんがMOTHERSを創業されたのは2000年、東大和市ということですが、店舗展開について少し聞かせてください。
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まずは東大和で最初の店舗(MOTHERS 東大和店)をつくり、立川で2号店、3号店を出しました。それから吉祥寺へと展開していきました。
当初は、都心で戦う実力がなかったからというのが正直なところです。
- 今回のコロナ期においても、しっかり利益を出して、次の展開につなげていらっしゃいます。
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都心、繁華街ではビジネスマンのニーズが高く、住宅街はファミリーニーズですよね。僕はその両方のマーケットがいいバランスで成立するところがいいと思っています。どっちのニーズにも対応でき、かつ、片方がダメでも片方が機能すれば成立するような、リスクヘッジのできる場所ですね。
- 象徴的なのは西新宿「THE KNOT TOKYO Shinjuku」の【MORETHAN GRILL】でしょうか。
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ビジネス客とファミリー客の両方のニーズに応えているのと、開発で新しいお客様も増えているエリアですから。
古いホテルのリノベーション案件なんですが、僕はホテルの中の飲食店ということではなく、飲食店ファーストでホテルをリノベすることを考えた。店、ホテル、街と、シームレスでタイムレスな流れをそこでつくろうと思ったんです。
海外でもブティック・ホテルなどの流行がありますが、その影響もあります。「THE KNOT TOKYO Shinjuku」に関しては、プロデュースがIDEE創業者の黒崎さんで、彼がやはり素晴らしい仕事をされたと思います。我々は企画・運営を受託している形です。
コロナで気づいたタテ型組織の限界
- コロナのなかでも広島に出店されています。
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ええ、その事業のために、弊社は700人の面接をしました。あの時期、飲食店を辞めた人が多く面接に来ました。それもスーパーバイザーといった肩書の人が多くいました。いわゆる中間管理職ですね。僕はそこで改めて思ったんですよ、ちょっとした不測の事態が起こると不要になる仕事ってはたして本当に必要だったんだろうかって。
飲食業におけるヒエラルキーって、日本の古い会社と同じくタテ型で、これはもう時代に対応できていないです。日本のホスピタリティは素晴らしいと言われてきましたが、いまは相当傷んでいます。サービススタッフの質が落ちています。これは諸外国と比較しても明らかです。
- それがいわゆるDAO(分散型自立組織)型の経営にシフトするきっかけになったんですね。
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それまでも弊社は比較的風通しのいい組織体でしたが、それをもっと進めた感じです。DAOってご存知のように中央集権じゃない組織の在り方です。うちはMOTHERSというプラットフォームの上に、3人から10人くらいの小さなDAOがあって、それぞれの目標に応じて自主的に活動しています。複数のDAOに参加することも可能です。経営者は理念だけを用意します。我々の場合ですと「私達に関わる全ての人々の喜びの創造」です。
- シンプルですね。自立した個であることが重要ですが。
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はい。経営側は年間予算をオープンななかで決め、DAOのまとめ役に伝え、3か月に一度お互い評価し合うという形です。失敗しても違うところで認められるセイフティネット機能もあります。いま24のDAOが稼働しています。中間管理職の給料が不要になった分、スタッフに還元できています。
飲食業の大きな問題は、低賃金と老後不安です。それが解消できれば、もっと有能な人材が集まってくるし、飲食業全体の地位向上にもなります。少なくとも給与面では、こうすることで還元できていますし、我々のような仕事ですと、歳をとっても活躍できる場所がいくらでもあるんです。セカンドライフで農業をやりたい人がいれば、農業をやって食材提供という形で我々とつながってくれればいいし、経験を活かした教育というつながり方もあるでしょう。
コロナでストップしているのですが、台北やベトナムへの出店計画もありました。ここで考えたのはパン屋さんとその学校を合わせるということでした。こういうシーンでは、熟練の知恵が必要になるのです。いま進めている鹿児島や阿蘇のプロジェクトだって同様です。畜産の世界では60歳でも若造と言われていますよ(笑)
「食×課題解決」で生み出される飲食業の可能性
- 店づくりを通じて街づくり、ひいては地方創生にもつながります。
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飲食って賑わいの創出なんです。広島のプロジェクトでは人が少ないエリアに人を呼ぶことができています。立川エリアの複数出店も賑わいの創出の取り組みのひとつではないでしょうか。店で人を呼べれば、そこに宿泊施設も必要になるし、地元に産業が生まれ、雇用が生まれ、という流れができる。これが我々のできる地方創生です。
また、課題解決のひとつとして、地方での食の広がりが今後の飲食業界の地位向上につながるとも考えます。これからも世界中の多くの人々が地方を訪れると思います。その際に地元にまだない業態、地元の食材の活用方法を広げることで、飲食業界のビジネスチャンスも広がっていきます。
- 確かに。日本の食コンテンツはこの国の宝なので、有効活用してほしいです。地方創生以外ではどのようなことに取り組んでおられますか。
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今は「食×テクノロジー」「食×健康・予防医療」といった分野に参入しています。個人のゲノムを解析して、その人の壊れた細胞を回復するサービスがあるのですが、そのサービスと食を結びつけることに取り組んでいます。
例えば企業と組んで社員食堂のわきに診療所をつくり、社員ひとりひとりのダメージを受けている箇所を改善するためのサプリや食のメニューを用意していくとか、コンサルだけではなく、具体的に我々が飲食で培ってきたノウハウをその領域にも入れていこうと思っています。
- 食の広がりを感じます。最後に飲食業の将来について、いま思っておられることをお話しください。
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我々は、飲食業界で働く人たちにもっと誇りを持って働けるようになってほしいと思っています。そのためには、給与アップや雇用長期化などの課題解決が必須です。やり方を変えて新しい外食業界を切り拓く時代が来たと思っています。
給与面に関しては、中間管理職を少なくし、これまでの会社組織・ヒエラルキー型からメンバーがフラットにつながるDAO型組織の編成を取り入れ、長期雇用と高賃金を同時に実現していきたいと考えています。
この2つの課題がクリアになると、店舗を増やし売り上げが向上しても給与は上がらず生活レベルが変わらない水平展開から、50歳を過ぎてからの働き方を解決できる循環型社会の実現が可能です。
飲食業界の将来も、申し上げてきましたように、「食×課題解決」でいろんな可能性があります。社会貢献もできます。これからますます楽しみな業界だと思っています。