行きたいと思えるものをつくればいい
バルニバービ代表 佐藤裕久氏の出雲創再生
プロジェクト

株式会社バルニバービ代表取締役会長 CEO兼CCO
佐藤 裕久

「食から始まる地方創再生」を掲げる(株)バルニバービが、淡路島に続いて出雲の地で「WINDY FARM ATMOSPHERE」を始動する。夕陽の美しい島根県の西海岸で新たなまちづくりを目指すプロジェクトの第一期として、185席の大型レストランと8室からなるホテル、飲食店を併設するパーキングエリアが、5月1日にオープンした。
「初めてこの地を訪れ、そして即決した」と語る佐藤裕久氏(代表取締役会長)に、新しいプロジェクトへの思いを語ってもらった。

なぜこの地を選んだのか?
それはこの絶景が答えの全て

この出雲の地を選んだ理由について教えてください。

今日ここに来ていただいて感じられたことがあるのではと思うのですが…僕がここを選んだ理由はそれかと思うんです。
僕らが「ワンダラスト」と呼んでいる、いわゆる旅人的な視点で見たときに、ここは本当に素晴らしい場所だと思います。それは特別なコンテンツがあるということではないんです。忘れ去られたような場所であるにもかかわらず、潜在的な魅力に満ちているということ。
そんな場所って実は日本中に山のようにあるんですよ。素晴らしいのに忘れられ、放っておかれた場所。ここは間違いなくそんなひとつだと思います。

海が綺麗だし、風が気持ちいいところです。

海に沈む夕陽の美しさ、波の音…都会暮らしの我々にとっては夢のような場所です。
島根県は日本でも2番目に人口が少ない県なのですが、そのぶん都会生活で疲れている人にとってはものすごく贅沢な場所とも言えますよね。過疎地と言われるような場所でも、物の見方の角度を変えるだけで潜在的な価値は堀り起こされるんですよ。

分かりやすいキーワードで言えば「海と夕陽と西海岸」の場所ということでしょうか。
われわれは「Frogs FARM ATMOSPHERE(フロッグス・ファーム アトモスフィア)」と名付け、飲食店、宿泊施設を中心に17施設を運営していますが、あそこの氏神様は伊弉諾(イザナギ)神宮のイザナギノミコトでしょ。出雲はその子であるスサノオノミコトの地ですから、「イザナギ」から「スサノオ」に導かれて…と言えないこともないんです。でも、まあこれは後から付けた話だと言われればそれまでですが、何らか縁みたいなものは感じています。

最初から日本の国づくりの歴史を意識されたのかなと思いましたが。

いえ、実際は、SBIホールディングさんと一緒に地方再生プロジェクトを進めているなかで、島根県の案件を提案されたところから始まっています。島根って僕は行ったことがなかったので、ここを提案していただいたとき、初めてだからということで来てみたんです。で、見た瞬間にここでやろうと即決しました。
まあ、考えてみれば、いくつかの偶然が我々のフィロソフィーと一致した、ということかもしれません。

僕たちの地方創再生って、結局、そこに住みたいかどうかということが一番大事なんです。
実は、これらプロジェクトの最初は大津に始まるんです。大津駅の再開発を当時の大津市長とJR西日本の京都支社長と話し合ったのがはじまり。
我々は熱く語り合いました。そして僕は大津の町を歩いてみた。いい感じの商店街があって、お店の人とお客さんとが仲良く一緒にご飯を食べたりしているのを見て、ああこの町には人が生きてる、と感動したんです。で、僕がやると市長に言った。
なので、我々の地方創再生プロジェクトの最初は、淡路ではなく大津だったということですね。大津は第0章、ということになるのでしょう。
第1章が申し上げました淡路。この出雲は第2章ということですね。まだまだこれは続きます。日本中にいくつか進行中のものがあります。

この太陽と海と、そして愛する人たちがいれば充分
そこに食を絡めた施策で人が住める町に

まずレストランとホテルがオープンするわけですが、その後はどう進化していくのでしょう。

ここの土地に住宅を建てます。人が住める町にしていくんです。
ここに来る最初の人は、トイレ休憩でちょっと立ち寄るだけかもしれない。それが次には自販機で飲み物を買う、そしてレストランに立ち寄って何か食べるようになり、気に入れば宿泊するようになる。そのように進化していくのだと思います。僕たちはイベントをやることもできますし。

最初、書面で数か所提案していただき、その段階で僕はここにしか気がとまらなかった。で、やって来て、即決です。
迷いはない。こういうことは迷いがあるくらいならやらないほうがいいんです。
波の音と夕陽が待ってくれていた、と言うこともできるのでしょうかね(笑)

心のセンサーを研ぎ澄ましてみるとわかるんです。
今のトレンドは?とか、経済合理性は?とか、AIの意見は?とか、そういう打算のフィルターを取り除くことが大切なんです。僕は自分でその能力があると思ってる。
だって、これ以上何がいりますか?
この太陽と海と、そして愛する人たちがいれば、それでもう十分じゃないんでしょうか。
僕は常に、余計なフィルターは外して、まずは無垢なものに問いかけてみるんです。
で、結果的に住みたくなる、居たくなる、ということが大事だと。
実はこういうことばかり言うから僕の飲食セミナーって役に立たないって笑われるんですよ。飲食語らずにこんなことばかり語るから(笑)。

食をベースにした地方創再生を説かれていますが、御社の強みについて教えてください。

あるとき食と地方創再生に親和性があることに気づきました。第一は僕たちはレストランを経営しているわけですから、食材を仕入れる力があるということなんです。食の原点である生産者の方々との具体的な取引があるということです。この地にも漁港があって、僕たちは取引をしているんです。
東日本大震災のときは、東京でも東北からの食材の入荷が途絶えましたが、その時僕たちは淡路島の食材をつかった。それがご縁となり淡路島の生産者の方々と関係が築けるようになった。その場に行かなくてもその土地とのつながりができたのです。
そういったつながりの中から、食をベースにしたその土地の創再生が具体化していったわけです。
いま淡路島はどんどん成長、進化をとげて、住宅需要も増えています。

この出雲にはまずどういう人たちが来ると想定されているんですか。

う~ん、誰でしょうね(笑)。そういうことってあまり考えないんです。淡路島の時もそう聞かれましたが、「知りません」と言った。そんなこと考えなくていいと思ってまして。
「ここに来たくないですか?」それが僕の答えなんです。
仮に来たくないものをつくったとしたら、それは僕らの負け、そういうことだと思ってるんです。

ヘリポートもありますが、これは外国人や富裕層の対応も視野に入れてのことですか。

そうですね。レスキューの意味もありますね。
僕は、ヘリで来る富裕層も、自転車こいで来る人も、キックボードで来る人も、みんな同じ価値観でこの夕陽を見てほしい、楽しんでほしいと思っています。出雲大社参拝後に来ていただくのもいいかなと思います。
観光って日没まででしょ、そのあとがない。
温泉旅館はあっても、館内で完結してるでしょ。
僕らは宿の中に囲い込むのではなく、面でやろうとしています。
淡路島では、僕たちの敷地の北側に地元の人がコーヒーショップを開業された。
これこそ僕らの願いどおりなんです。地元との科学反応がはじまったと。
当然、反発もあるんですよ。僕らは地元の人間ではないですからね。でもそこで食の生産者の方々が門戸を開いてくれた。そんな淡路のように、ここでもやりたいと思っています。

やはり食って一番大事なんですよ。
それがなければ、どんないい美術館があっても公園があっても、人はそこに滞在できないでしょ。食があって初めて滞在が可能になり、宿泊施設やエンターテインメントがあればもっと長くいられる。

僕は好きなことをやってるだけですが、この場所に佇んでみたときの気持ちよさは僕が一番知っているわけです。車で一時間圏内に住んでいるなら確実に僕はこの地に来る。
車で一時間圏内と言えば、いくら過疎だと言っても10万人は住んでいる。10万人のお客さんが月一回来てくれて2000円使ってくれるだけで2億円ですよ(笑)。
冬は寒いかもしれません。でも、テラスで焚火したら気持ちいいかもしれないし、そこで焼きいも焼いて出したら…僕は自分ならそれいいなって思う。あくまで自分がそうされたらうれしいってことに忠実なのは、僕が自分のお店の第一号店を始めた時から何も変わっていないんです。

その意味でも、淡路島での実績は大事です。

そうですね。人は無いものは信じてくれませんからね。
そういった意味では淡路島に年間約40万人呼んでいる実績は大事で、それがエビデンスになっています。
でも僕は言いたい。本当に来たいと思えるものをつくればそれでいいんだ、と。これは僕の心の叫びなんです。
いま僕は会長という立場ですが、社長とそのへんは議論を重ねながらやってます(笑)。

食からはじまる地方創再生をぜひ一緒に
思いがあれば迷わず手を挙げてほしい

最後に食の仕事に携わりたい方へのメッセージをお願いします。

淡路にも出雲にも、まずは来てほしいです。そして見てもらって、自分ならもっとできる、という人がいれば手を挙げてほしい。出店場所や資金の一部援助も含めて考えます。
町って雑多なことが魅力なんですよ。今で言うダイバーシティ。その極致が横丁かもしれませんね。
とにかく、自分たちだけでやると似通ったものになってしまいがち。
だから雑多に入り込んで来てほしい。
キッチンカー持ってきてもいいし、隣の敷地を使って自分たちで何かを始めるのもいいのかもしれない。僕はみんなに一緒にやりませんかと言いたい。

自分で野菜を作ったりできるし、釣った魚で料理もできる。
サラリーマンをリタイアされた方とかが、田舎生活をされたいという希望もよく聞きます。
われわれのやっていることが特殊なのかもしれませんが、私の発言から何かを感じ取って下さる方もいるかと思います。そんな方にこの記事が届けばいいですね。

PROFILE

佐藤 裕久SATO HIROHISA

京都市上京区生まれ。神戸市外国語大学英米語学科中退、1991年 バルニバービ設立、代表取締役に就任。現在、東京・大阪をはじめ全国96店舗(2022年8月末時点)のレストラン・カフェ・ホテルを展開。近年は淡路島をはじめ、食と宿を切り口に地方創再生に取り組んでいる。著書に『一杯のカフェの力を信じますか?』(河出書房新社)『日本一カフェで街を変える男』(グラフ社)がある。
2022年2月には環境省エコファースト企業に認定され飲食業界の環境保全先進企業として牽引を始める。

INFORMATION

WINDY FARM ATMOSPHERE

日本各地のそれぞれの魅力、あるいは忘れられているポテンシャルにフォーカスし、その街でしか実現できない「食」を基盤としたバルニバービによる地方創再生。淡路島のFrogs FARM ATMOSPHEREに続き、島根県出雲市で進行するプロジェクト。住まう、暮らす、を明確に意識した内容で開発が進められている。

  • <主な施設>

    A カフェ& レストラン / ガーブ・クリフテラス・出雲
    『食から始まる地方創再生』の中心となるエリアのシンボルとなるカフェレストラン。

    A ホテル・ザ・クリフ
    岩壁に繰り抜かれた洞窟を思わせる全8 室のホテル。CLIFF TERRACE IZUMOの地下に併設されている。プライベート空間が重視されており、眼前に広がる景色も含め非日常を体感できる。

    B 出雲・湖陵 パーキングエリア
    思わず立ち寄りたくなるように洗練されたデザインで『食』を楽しめるパーキングエリア。
    施設内にはハンバーガーなどのテイクアウトショップが立ち並ぶ。

    C プライベートコテージ ~ ワンダラスト ~
    3ベッドルーム、リビングルームを備えた一棟貸しのプライベートコテージ。
    施設には専用のテラスが備え付けられ、ゲスト専用のサウナとジャグジーは、サンセットを見ながら楽しめる完全なプライベート空間。

    D フォトスポット 出雲 風のブランコ
    断崖絶壁のギリギリに設置されたオーシャンフロントのフォトスポット。

    E ヘリポート
    広島・大阪などからこのエリアに訪れることができる場外離着陸場。

    ※2nd SEASONとして、このエリアでのコテージ運営と生活の経験を基に、居住者スペース等を整備予定。

JFDA

JFDA(日本ファインダイニング協会)とは、「日本を世界一の美食の国に」というスローガンのもとに、日本の食文化の魅力を世界へ発信するべく、レストラン経営者が集まりました。商品・サービス・マネジメント・人材・海外進出などの互恵関係を築くことにより、日本の素晴らしいレストラン文化の発信と外食産業のけん引していける協会を目指しています。