古い建物を自らの手で改修して完成させた宿泊施設「日光イン」を11年にわたって運営している木村 顕さん。そこを訪れた外国人観光客との出会いをきっかけに建築から食へと興味のアンテナは広がり、4年前に“朝ごはんを通して世界を知る”がコンセプトのカフェレストラン「WORLD BREAKFAST ALLDAY」をオープンさせた。世界の朝食を提供するという独創的なアイデアはいつ、どうやって生まれたのだろうか。
古い建築物に魅せられ、建築一筋だった学生時代
ーーWORLD BREAKFAST ALLDAYを開くまでは何をされていたんですか?
学生のときに建築を学んでいて勉強の一環で2ヵ月間ヨーロッパの建築物を観て廻ったんですが、そのときに驚いたのが、古い建物が当たり前のように残されていて、しかも現代のライフスタイルがしっかりと取り入れられていること。「古いものと新しいものがミックスして文化が作られている」って感じたんです。でも日本では、建築の勉強をしている僕ですら古い建物の保存の仕方なんて一切習わなかったくらいですし、古いものを壊して新しいものを作ることが良しとされていた。そこで日本の古い建築物の魅力を知りたくなって、大学院では古い住宅建築の研究をしたんですが、いざ社会に出る段階になっても経験を活かせる仕事が見つからなかったんです。そんなときに栃木の日光で朽ち果てた書院造の建物と出会ったのでこれまで勉強してきたことを実践しようとその建物を借りて修理をして。そうこうしているうちに「ここを宿泊施設にしたら、たくさんの人に実際に建物の魅力を感じてもらえる」と思い立ったことから日光インをスタートさせました。

「君の国の朝ごはんは何?」そこからイメージが膨らんだ
ーーWORLD BREAKFAST ALLDAYのコンセプトはどのように作られたのですか?
宿に来る世界中の人と話すのが面白くていろいろ聞いていたんですけど、自分の国についてしっかり話せる人が意外と少ないんですね。僕もコミュニケーション能力が高くないから引き出せなくて(笑)。でもあるときフランス人のお客さんと仲良くなって寿司を食べに行って。「なんだこの黒い紙みたいなのは?」「海苔だよ」「何でできているんだ?」「海藻で……」なんて説明していたら会話が弾んで楽しかったんです。それがきっかけで、宿泊する各国の方に食について聞くようにしたら、コミュニケーションが上手く取れるようになり、そこで朝ごはんの話をしてくれる人たちがいたんです。話を聞いていくうちに「朝ごはんにはその国らしさが凝縮されている」と思うようになりました。日本にもご飯、味噌汁、魚に生卵と納豆……っていう定番があるように、その国ならではのメニューがある。そこで「朝ごはんは何を食べますか?」ってアンケートを取るようにしたら、その内容をイラストで描いてくれる人もいたりして、どんどん楽しくなっていったんですね。それで、「このワクワク感を誰かと共有するのは面白いな」って思いついたことが、WORLD BREAKFAST ALLDAYのコンセプトになっています。それから、まず図書館で世界の食文化についての本を読んで、体系的なイメージを頭に入れました。その上で、朝ごはんというわかりやすい食文化を世界各国の魅力を感じるきっかけにすることで、それぞれの文化、魅力も朝ごはんと合わせて伝えていこうと、日光インで得たコンセプトをさらに掘り下げました。それがワークショップなどのイベント開催や、特集国ごとに紙もの(メニューの詳細や食文化の背景などを記載したチラシ)を作ることに繋がっています。そこは変にこだわっていて僕が絵も描いているので、自分で自分の首を絞めているんですけど(笑)。

大使館や政府観光局も協力!? メニューの為にその国を徹底調査
ーーメニューを2ヵ月ごとに変えているそうですが、他店ではなかなか見られない試みですよね?その都度どんな準備をしているんですか?
宿泊施設のお客さんから取ったアンケートをベースにしつつ、毎回テーマになる国の人に協力をお願いします。食についてのアンケートから始まって、実際に何度も料理を作っての試食を経て店頭メニューを決めます。その国のことをより深く知っていく過程にもなっていて、面白いですね。これまで26カ国の特集をしていて、協力者はお店のお客さんや、そのお客さんの伝手を頼ったりする状態だったのですが、最近では大使館や政府観光局が協力してくれる体制もできてきました。

僕がするのは"伝える"ということだけ。朝食には何百年もの歴史があるから
ーーお店が軌道に乗っているなかで、今後の夢や目標はありますか?
今は1店舗だけなので数を増やしてより多くの人に僕らが世界の人から教えてもらったことを伝えていきたいです。僕は建築物も朝ごはんもそうですけど、それぞれの国が長い歴史をかけて作ってきたものに興味があって、それを紹介しているだけなんです。自分で作ってないからズルいって思われるかもしれないけど、何百年もかけてできあがったスタイルだからこそ、僕が何年かかけて作るものよりもよっぽどすごいし、それを軽はずみに捻じ曲げるのではなく、しっかり把握して、正しく伝えることが大事だと思っています。

