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【店舗経営のプロが考察!】事例から読み解く、新型コロナウイルス禍の店舗経営論

店舗経営のプロが考察!事例から読み解く、新型コロナウイルス禍の店舗経営論

2020年1月中旬以降、新型コロナウイルスは感染拡大の一途を辿り、1年以上経過した現在でも、いまだその脅威はとどまるところを知りません。
言うまでもなく、店舗への影響は大きく、多くの店舗が非常に厳しい状況を強いられています。
しかし、こういった状況下でも安定した売上を出し、さらには業績を飛躍的に伸ばしている店舗もあります。

この記事では、1,500社以上の経営者を育ててきた店舗経営のプロフェッショナル「オラクルひと・しくみ研究所」の小阪裕司さんに、売上を継続させるための新型コロナウイルス禍の店舗経営論を伺いました。

「顧客」をストックする必要性

新型コロナウイルス禍で売上を継続させられる店舗、閉店に追い込まれる店舗、その違いは何か。
私が主宰している「ワクワク系マーケティング実践会」の会員でもある和菓子店のケースを紹介します。

その和菓子店は10店舗を抱える老舗の和菓子店なのですが、今回の新型コロナウイルス感染拡大を受けて、売上の伸びた店舗と売上の落ちた店舗が5店舗ずつ綺麗に分かれる結果となりました。
そして、それぞれの店舗にどういった違いがあるのかを深く分析した結果、来店客の客層が異なることが分かりました。売上の伸びた5店舗は地域密着型の店舗で常連客が多く、もう一方の売上の落ちた5店舗は、来店客の中で観光客が多くの割合を占めていました。

ここで分かるのは、常連客、つまり顧客がストックされている店舗はこのような状況下において何よりも“強い”ということ。反対に、顧客がストックされておらず、観光客頼りになってしまっている店舗では、どうしても世の中の流れに大きく左右されてしまうということ。

店舗に立って働いている経営者は、どうしても日々の売上や新商品のことなどで考えがいっぱいになり、顧客の創造、そして顧客をストックするという部分から目を逸らせてしまいがちです。
しかし、それはとてももったいないことなんですね。自身の経営する店舗にどれくらいの顧客がいて、その顧客をどう維持できるか、どう継続的に利用してもらえるかを考える。これは、このような新型コロナウイルスの状況下でなくとも店舗経営を成功に導くための重要なポイントになります。
「ワクワク系マーケティング実践会」の会員のあるバーではこの重要性に気づき、一昨年から顧客のストックを進めていました。
具体的には名簿登録とファン化による会員化です。その結果、昨年の新型コロナウイルス禍でもほとんど売上を落としませんでした。営業自粛要請に応じていたにも関わらず、です。顧客をストックすることの強さを物語る事例です。

店舗を思い出してもらうためのアプローチが不可欠

顧客をストックする、という考え方は最も重要なポイントですが、同時にそれは大前提であり、次のステップとしてそのストックに対するアプローチが不可欠となります。
テクニカルな施策は必要ありません。まずは、顧客に店舗の存在を思い出していただくこと、そのために何らかの行動をとるということが鍵となります。
例えば、ストックされている顧客の名簿に対して手紙を出すというアプローチでも良いでしょう。メールマガジンの配信やLINEなどでの働きかけでも良い。そこで伝える内容についても、ひとまずは深く考える必要はありません。商品の紹介や、店舗の営業時間の告知、あるいはお店が厳しい状況であるということを正直に伝えるものでも良いかと思います。それが顧客にお店を思い出してもらうきっかけとなります。
3日と空けずお店に立ち寄ってくださる常連の顧客であっても、お店のことを常に考えてくれているわけではありません。さらには新型コロナウイルス禍の中です。「お店に行きたい気持ちはあるけれど、営業しているか分からないので行けない」という顧客がいることも容易に想像がつきます。そういったことからも、店舗側が顧客を意識し、大切に扱い、“顧客”として維持していくための持続的な働きかけが必要になってきます。

売上を飛躍させるためのポイントは付加価値

新型コロナウイルス禍において、「打つ術、無し」と諦めかけている店舗経営者の方は、まず先述した顧客のストック、そしてその顧客へのアプローチをおすすめします。これらについては、実践することで、まず間違いなく効果を生み出します。
次に、この厳しい状況下で売上を飛躍させていく施策について、以下の2つの事例を参考に解説します。
こちらも「ワクワク系マーケティング実践会」の会員の店舗となりますが、ひとつ目はイタリアンレストランで大きく売上を伸ばしたテイクアウト弁当の事例です。この店舗では、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけにお弁当のテイクアウト販売を開始。
伊勢海老を使用した高級弁当で当初から大変人気を博していましたが、とあるちょっとした工夫を加えたことでリピーターが増加し、またオードブルなどの注文が増えたことで売上を伸長させました。
この店舗が行った工夫は、値段を安くしたわけでも、お弁当の伊勢海老を一匹増やしてお得感に訴えかけたわけでもありません。
お弁当そのものの内容変更ではなく、お弁当に添えて提供していた「付属品」の変更です。お弁当の発売当初は、お弁当に「お箸」と「メニュー」のみを添えていました。しかし、その後「お箸」、「フォークとナイフ」、「フィレンツェの絵が描かれたテーブルマット」、さらに「エプロン」、「手書きのメニュー」など、イタリアンレストランのイメージを連想させるものを添えて提供するように変更したのです。
すごくコストのかかるものは何ひとつありません。しかしその結果、お客様からは大絶賛。
すぐにリピーターが生まれ、売上が飛躍的に伸びました。

同様の事例が割烹料理店でもあります。
その店舗では鰻の蒲焼の真空パックを通販とテイクアウトで販売していたのですが、そこに家で盛り付けるための笹の葉や手書きのメッセージカードなどを添えることで大反響を得ました。

イタリアンレストランの高級弁当、割烹料理店の鰻の蒲焼、これらに共通しているものは付加価値の創造です。一概には言えませんが、売上を飛躍させるために大きなコストをかけたり、値段を下げたりする必要はありません。
少し手間を加えることで付加価値が高くなり、それによって単価を上げることも可能になります。消費者はその付加価値も含めた商品・サービスを求めるので、集客にも困ることなく、最終的には生産性を上げることもできるようになります。

売上を飛躍させるためのポイントは付加価値

実店舗の価値とは?

この2店舗の事例から読み解けることは、付加価値による生産性向上にとどまりません。両者ともに提供した付加価値の真意は、ただお腹を満たすためではなく食事そのもの、ひいてはその店を通じて得られる「心豊かな体験」を提供することです。
ここが重要なポイントであり、実店舗の価値を見出せる部分でもあります。
多くの消費者は、食事をその場の空間とセットで楽しみたいと考えています。
その需要を見極め、できる限りの演出をし、添え物などにも心を配り、お店の雰囲気を醸し出す。そうすることで、消費者は「この料理をお店で食べたい」と考えるようになります。

ここで取り上げた2つの店舗でも、ご自宅で食事を楽しんでいただいた後日、来店し、店内で食事をされる機会が増えたと伺っています。
新型コロナウイルス禍の中、現状を凌ぐためにテイクアウトやデリバリー、通販などを行っている店舗は数多くありますし、そこで利益を上げることは間違いではありません。
ただ、実店舗の価値がテイクアウトやデリバリーなのかというと、そうではありません。実店舗の価値はその店舗だからこそ得られる「体験」であり、店舗経営者であれば、店内で食事をしていただきたいはずです。
テイクアウトやデリバリーなども長期的な視野で、自店を通じて「心の豊かさ」を得ていただく施策と考え、そのためにどういった付加価値を与えることが効果的かを検討することが大切です。

新型コロナウイルスが浮き彫りにした店舗本来の魅力

飲食店舗の事例が多くなりましたが、顧客のストック、顧客へのアプローチ、付加価値の創造や実店舗の在り方についてはどれも、ほかの業態店舗に置き換えることができます。
そして、どの業態店舗についても、顧客との向き合い方、そして実店舗の価値・魅力を経営者自らが正確に理解し、その価値を提供することで消費者に選ばれる店舗になり得ます。

新型コロナウイルスが浮き彫りにしたのは厳しい局面だけではありません。マニュアルに留まらない対応や、顧客を掴むお店の個性を発揮できるのは今だからこそ、という考え方もできます。
そしてそれらはこの間に磨いていくことで、アフターコロナの社会でさらに飛躍を生む材料になります。
現状は多くの店舗で苦しい状況が続いていると思います。しかし、その先には店舗の必要性が再確認されるでしょう。店舗には明るい未来があると、私は考えています。

※本インタビューは2021年1月中旬に行ったものを再編集してお届けしています。

この記事の監修
小阪 裕司/株式会社USEN canaeru 開業コンサルタント

○小阪 裕司
(オラクルひと・しくみ研究所代表、博士(情報学))
1992年「オラクルひと・しくみ研究所」設立。人の「感性と行動の科学」を基にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。全都道府県・海外から約1,500社が参加している。現在、ワクワク系の全国展開事業が経済産業省の認定を受けている。

○株式会社USEN 会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。

○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。

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