個人事業主は事業を始める際に、開業届を提出しなければいけません。また、サラリーマンも副業を行う場合、提出が必要なことがあります。開業届は事業開始の第一歩です。最初で躓かないよう、提出に必要な書類、提出方法、また提出することで得られるメリット等を確認しておきましょう。
開業届とは
開業届とは、個人事業主が新たに事業を開始した時に提出が必要な書類のことです。正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。
開業届は新事業の開始時のほかに、事業用の事務所や事業の新設、増設、移転をした際に提出が必要です。開業届の提出が必要なのは、事業所得、不動産所得、山林所得を得る事業を開始する人です。つまり、新たな事業を開始するほぼすべての個人事業主が該当します。そして、開業届の提出は義務です。事業を開始したら必ず提出する必要があります。「個人事業の開業・廃業等届出書」のほかに「個人事業税の事業開始等申告書」を提出する必要があります。

副業でも開業届の提出は必要か
サラリーマンの副業で開業届の提出が求められるのは、その事業を一時的ではなく、継続的に行う場合です。サラリーマンの副業は基本、雑所得扱いとされていますが、開業届を提出することで事業所得にできる可能性が高まります。加えて、経費の範囲を広げることができます。
さらに青色申告もできるようになるため、サラリーマンの副業であってもメリットが多いので、開業届の提出をおすすめします。開業届の提出の方法などは、個人事業主が行う方法と変わりません。
開業届の提出場所と期限
開業届には「個人事業の開業・廃業届出書」と「個人事業税の事業開始等申告書」があり、それぞれに提出先と提出期限が異なっています。
個人事業の開業・廃業等届出書
自宅の納税地を管轄する税務署が提出先です。事務所や店舗の所在する税務署に提出もできますが、原則は自宅の所在する税務署が管轄になります。提出方法は直接税務署に持参するか、郵送、電子申告の三択から選択できます。提出期限は開業日から一ヶ月以内とされています。ですが、提出期限を過ぎても特に罰則はありません。
個人事業税の事業開始等申告書
提出先は都道府県税事務所です。提出方法や提出期限などは各自治体によって異なるので確認が必要です。ちなみに、千葉県は事業開始日から一ヶ月以内、東京都は事業開始から15日以内に提出する必要があります。こちらも提出期限を過ぎた場合でも、特に罰則はありません。一般的に開業届というと「個人事業の開業・廃業等届出書」を指すことが多く、「個人事業税の事業開始等申告書」は提出し忘れている人が多いです。
開業届の提出に必要なもの
開業届の提出に必要なものは「個人事業の開業・廃業等届出書」です。国税庁のHPからダウンロードすることができ、印刷して記入します。もしくは、最寄りの税務署窓口でも入手する事ができます。その他、経理ソフトなどからも書類をダウロードして使用することができます。開業届には提出用と控え用があります。忘れず2枚とも取得するようにしておきましょう。控え用の開業届は提出に必須ではありませんが、後々事業を行う中で必要になる場面が多々あります。
開業届にはさまざまな事項を記載する必要があり、以下の書類を事前に準備しておくと記入がスムーズになりますので、参考にしてみてください。
■マイナンバー
■印鑑
■事務所の住所
■開業日がわかる書類
また、開業届を税務署で直接提出する際は、マイナンバーと身分証の確認が行われます。マイナンバー通知書と身分を証明できる書類、またはマイナンバーカードを忘れず持参しましょう。郵送の際は、マイナンバーと身分証明書のコピーを同封することになります。

開業届と一緒に提出する書類一覧
開業届を提出する際に一緒に提出する書類があります。提出する書類は個人の状況に応じて異なるため、必要なものだけを一緒に提出しましょう。一般的に開業届と一緒に提出することが多い書類は以下のものです。
青色申告申請書
青色申告で確定申告を行いたい場合に提出する書類です。青色申告をすることで最大65万円の控除を受けられます。青色申告申請書を提出することで青色申告ができるようになりますが、白色申告での申告への変更も可能です。
一方、青色申告申請書を提出していない場合、白色申告から青色申告への変更はできません。そのため、現時点で青色申告しないつもりでも、念の為に青色申告申請書を提出しておくことをおすすめします。
青色事業専従者給与に関する届出書
配偶者や親、子供を雇って給料を支払う場合、提出が必要になる書類です。提出することで、支払った給料が経費として計上できるようになります。
給与支払事務所等の開設届出
従業員を雇う場合に必要な書類です。給与を支払う事務所や店舗を開設してから一ヶ月以内に提出します。従業員がいない場合、提出は不要です。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
従業員が9人以下の場合に源泉徴収した所得税を半年分まとめて納めるための特例制度を受けるために必要な申請書です。従業員が10人以上、また源泉所得税の特例制度を活用しない場合は提出不要です。
開業届を提出することによるメリット
開業届を提出することでさまざまなメリットがあります。主なメリットは以下のものが挙げられます。
青色申告による控除が受けられる
個人事業主は毎年確定申告が必須です。その際、青色申告ならば最大65万円の控除が受けられます。控除額が多ければ、それだけ所得税や住民税を安く抑えられます。青色申告をするには、開業届と青色申告申請書の提出が必要です。
青色申告についてはこちらの記事で詳しく解説しています
事業用の銀行口座が作れる
開業届を提出すると屋号が使えるようになり、さらに屋号を使っての銀行口座開設が可能になります。事業の収支を可視化するために、個人用とは別に事業専用の銀行口座を作っておくと、のちのち会計処理などの際に便利です。また、事業用の銀行口座があることで、取引先からの信用も得られやすくなります。
法人用のクレジットカードが作れる
開業届を提出して個人事業主となると、法人用のクレジットカードが作れるようになります。確定申告をスムーズにするためにも、クレジットカードを個人用と事業用に分けておくのがおすすめです。法人のクレジットカードにはさまざまなサービスが付帯しており、事業をする上で一枚持っておくと便利です。
開業届に関する注意点やデメリット
開業届を提出する際に気をつけておきたいことがあります。主な注意点は以下のものです。

職業欄の選択は事業税の負担率に直結する
開業届には職業欄を記載する欄がありますが、選択した職業によって事業税が異なるため、選択は慎重に行う必要があります。ただし、納める税金を安くしようと、税率の安い職業で虚偽申告をしてはいけません。総務省統計局の「日本標準職業分類」を参考に、自分の事業に当てはまる職業を記入しましょう。もし複数の職業を抱えている場合は、最も収入の多い職業を1つ書くことになります。
開業届の控えは必ず保管
開業届を提出する際、控え用の書類に受付印をもらって保管しておきましょう。開業届の控えは、屋号での銀行口座開設など、さまざまな場面で必要になります。開業届を電子申告した場合、「受信通知」が受付印の代わりになるので、受信通知はPDF保存、もしくは印刷して紙で保管しておきましょう。
失業保険が受けられない
サラリーマンが副業で開業届を提出していると、会社を止めても失業保険の適用外になってしまいます。副業の収入が少ない、また事業を継続する予定がない場合は開業届の提出は慎重に行う必要があります。また、副業をやめる際は、速やかに廃業届を提出しておきましょう。
毎年必ず確定申告を行う必要がある
開業届を出すと収入の多寡にかかわらず確定申告が必要です。一方で開業届を出していない場合は20万円以下なら確定申告が必要ありません。
開業届を出すことでメリットが大きいのも確かですが、面倒な手続きも増えてしまいます。事業規模によってはメリットがあまり感じられないこともあります。
開業届を提出して事業をスタートさせよう!
開業届は事業をスタートさせる第一歩です。開業届は開業日から一ヶ月以内に提出が必要です。ただ提出期限を過ぎても特に罰則はないため、提出していない人もいるのが現状です。
しかし開業届を提出した方が、事業を行う上で多くのメリットを得られます。個人事業主として開業をしたら必ず開業届を提出するようにしましょう。
この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント
○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。
○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。