アルバイトを始めとする非正規雇用に関する基本的な知識と雇用事情について説明していきます。アルバイトを雇う前に、労務関連の知識を学んでおきましょう。
アルバイト・パートは細かな配慮が必要
アルバイトやパートは、正社員のような正規雇用と異なり、非正規雇用として扱われますが、労働者としての権利に変わりはありません。そのため、アルバイトやパートといった非正規雇用を行っている事業主は、正規雇用と同様、労務管理には十分に配慮する必要があります。アルバイトやパートは、正規雇用と比較すると勤務時間や出勤日数が少なく、時給や日給といった形で給与を支払うのが基本です。しかし、給与体系1つにしても、個々によって勤務条件が異なるため、それぞれの勤務条件に合わせるなど細かな配慮が必要になります。勤務条件が異なるだけで、有給休暇の付与日数や社会保険の加入・非加入にも違いが生じます。扶養控除内での勤務を希望するアルバイトやパートもいるため、労務関係に関する知識を事業主がしっかりと身に付けておくことが求められていると言えるでしょう。
アルバイトの賃金・有給休暇について
アルバイトの最低賃金について
最低賃金は「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があり、金額の高い方が適用されます。「地域別最低賃金」は地域によって異なり、東京などの都心部では人手不足や地価・物価の関係から、地方都市よりも高めに設定される傾向にあります。
有給休暇
有給休暇は「比例付与」という方法で労働者に一定の日数が与えられています。「比例付与」は、勤務条件によって与えられる有給休暇日数が変わり、その条件は週の所定の労働時間、所定労働日数、勤務期間によって決められています。例えば、週の所定労働時間が30時間以上で週の所定労働日数が5日以上、年間の所定労働日数が217日以上ある場合は、継続勤務期間が6ヵ月で10日、1年6ヵ月で11日、2年6ヵ月で12日と、後は1年ごとに2日延びていきます。なお、上限は6年6カ月以上の20日です。一方、週の所定労働時間が30時間未満で週の所定労働日数が1日、年間の所定労働日数が48~72日といった場合でも、継続勤務期間が6ヵ月で1日、1年6ヵ月で2日と、最大で3日まで有給休暇が付与されるので覚えておきましょう。
産休・育休
「アルバイトに産休・育休?」と思う人もいるかもしれませんが、アルバイトやパートも産前6週間・産後8週間の産休取得が可能です。ただし、この産休期間の給与等の支払いは企業側に義務はありません。育児休業については1年以上継続的に雇用されている、子供が1歳を超えても継続的に雇用することが見込まれているという条件を満たしている場合は取得可能です。こちらも産休と同様、給与等の支払いは企業側に義務はありませんが、後でトラブルを防ぐためにも、産休・育休期間中の給与等の支払いに関する規定を、雇用契約に記載しておいた方が良いでしょう。
アルバイトの社会保険について
健康保険・厚生年金
「健康保険」、「厚生年金」は「1日または1週間の所定労働時間」と「1ヵ月の所定労働日数」の両者が正規雇用者の3/4以上ならば、強制加入となります。この条件は契約上のものではなく、実際の残業時間等も含まれます。
雇用保険
「雇用保険」は1年以上の継続雇用が前提ですが、さらに週20時間以上勤務する際にも加入対象になります。ただし、学生と65歳以上のシニア世代については対象外とされています。
労災保険
「労災保険」は正規、非正規を問わず加入対象になります。労働時間の制限等もありませんので、週に1日しか働いていなくても事業者はそのアルバイトの分の保険料を納付しなければなりません。
未成年の雇用について
アルバイトは比較的若い労働者が多く、その中には未成年者もいます。高校生や未成年者を雇用する場合には、労働条件などについて配慮を行わなくてはなりません。未成年者を雇用する場合は、法律違反とならないよう細心の注意を払いましょう。
未成年者の年齢
小・中学生の雇用は原則禁止されています。(中学生の場合は所轄労働基準監督署長による許可を受けた場合のみ可能)
労働時間について
1日の労働時間は8時間、1週間の労働時間は40時間を超えてはいけません。また午後10時から午前5時までの夜間勤務も原則禁止されています。
未成年者アルバイトの業務内容について
未成年者の育成に有害とされる業務、危険性のある業務については禁止や制限があります。
アルバイトの扶養控除について
扶養控除は、税金の支払いを抑えるためのもので、アルバイト・パート収入が「103万」、「130万」、「141万」を超えるごとに扶養、控除に関する条件が変わります。
アルバイト・パートの年収が103万円を超えると、本人の収入に所得税が掛けられます。(「給与所得控除65万円」+「基礎控除38万円」=合計控除103万円という計算式により。)また、「配偶者控除」の対象からも外れます。配偶者控除は妻の所得が103万円以下であれば、夫の給与において「配偶者控除38万円」が認められるという制度です。「配偶者控除」がなくなる代わりに「配偶者特別控除」が適用され、年収141万円までは控除額が徐々に減額されていきます。なお、年収141万円を超えてしまった場合には、配偶者特別控除が0になるので注意が必要です。事業主としては、アルバイトやパートの人員不足に困っていて、少しでも長い時間勤務してほしいと思っていた場合でも、アルバイト・パート社員がこの税金の支出を抑えるために、この「扶養控除」を意識していることも気をつけましょう。
最新の雇用状況をチェックしましょう
雇用状況は時代によって大きく変化します。法律や条例の改定など、最新の雇用状況は常にチェックしておくようにしましょう。
改正パートタイム労働法
改正パートタイム労働法では、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」については文書で明示することが義務付けられています。また、アルバイト・パート従業員から説明を求められた際には、待遇を決定した事項について説明しなければならないとされています。アルバイト・パート従業員の職務内容や成果、意欲、能力、経験などを勘案して賃金を決定することが努力義務とされているほか、正社員と同じ仕事・人材活用の仕組みの場合には、単位時間当たりの賃金を同じにしなければならないとされています。正社員と職務内容が同じアルバイトやパート従業員の場合は、同じ水準の教育訓練を実施することが努力義務とされています。
アルバイト・パート従業員を差別的に扱うことが禁止されており、正社員登用のチャンスを整えることも求められています。正社員が行っている業務をアルバイト・パートといった非正規雇用に任せることで人件費削減を狙う企業が増えました。これらの非正規雇用に対する差別的な扱いに対し、歯止めをかけるための対策が改正パートタイム労働法に含まれています。アルバイト・パートの雇用管理を改善する規定に違反していると判断された場合には、厚生労働大臣による改善勧告が行われることになっています。2015年4月からは、勧告に従わない場合にはその事業者の名前を公表できるようになっているほか、虚偽報告を行った事業主に対して20万円以下の過料に処せられることになっているため、最低賃金の確認だけでなくこれらの法律も適宜確認しておくようにしましょう。
この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント
○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。
○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。
