独立・起業し、飲食店などのお店を開業することは、「自分が考えたコンセプトやテーマに沿った"完全自分オリジナル"の〇〇を、お客さまに提供し、それによって報酬を得る」という夢の仕事です。
その夢の仕事を継続させるためには、自分オリジナルの〇〇を産み出す作業よりも、お店という組織を経営するという作業の方が、圧倒的に多いのです。
残念ながら、このポイントを少なく見積もって開業してしまう開業者が多いのが実情です。
canaeru(カナエル)では、忙しい開業予定者のために、「まずはこれだけ抑えておけば経営は継続する」というポイントをまとめてみることにしました。
たくさんの経営本のどれを読めばいいのか分からない、セミナーなどで勉強する時間がない…という方に、まず抑えてほしいポイントは5つです。
起業して会社経営、美容院や飲食店も開業。あらゆる業態を事業化し、成功させてきた株式会社グリーンツリー代表・森田健太郎氏が解説します。
第3回目は、キャッシュフローをよくする具体的施策について解説します。
減価償却は"費用"
森田:減価償却と聞くと、それだけで拒否反応を示す人がいます。しかしこの減価償却をうまく使えなければ、第2回にあるとおり、ずっとキャッシュに困ることになります。つまり、減価償却をうまく使うか使えないかだけで、経営に天と地の差が出るのです。
減価償却とは、たとえばお店を作る際に3千万円かかったとすると、それを毎年費用として計上できる仕組みです。費用として計上できれば、利益を圧縮できます。たとえば、3千万円のお店を15年で減価償却すると、1年間で200万円の費用計上が可能です。
1千万円の利益が出た場合、200万円を費用計上できるため、800万円まで利益を圧縮することができるのです。当然、税金は800万円に対して掛かるため、納税額も抑えることができます。
ここでのポイントは、既にお店を作っている費用3千万円については施工業者に支払い済みのため、減価償却で200万円を費用計上しても、実際には200万円が手元から出ていくわけではありません。つまり減価償却とは、現金が出ていくことなく利益を圧縮できるものなのです。
第2回では、銀行から3千万円を5年間で借り入れた場合、年600万円の支払いとなり、法人税・法人事業税が40%あることから、利益が1千万円なければ返済ができないと説明しました。
しかし減価償却は手元からお金が出ないため、減価償却を利用すれば、利益を1千万円未満にしても銀行への支払いは可能となるのです。
たとえば、3千万円のお店を3年で償却したとします。実際には3年での償却は法律上できませんが、わかりやすくするために3年で償却させることにします。
すると、年に1千万円の減価償却ができるため、1千万円の利益が出ていた場合、利益は0円まで落とすことが可能です。
これにより、法人税、法人事業税は事実上ゼロ(事業税の場合、社員数50人以下、資本金1千万の場合は7万円必要)となります。
そして銀行への支払いは600万円のため、1千万円の減価償却ができると、手元になんと400万円ものお金が残るのです。
ただ国家は、減価償却期間が短いとその間税金をとることができないので、クルマは6年、接客用の応接セットは5年といった形で法定耐用年数を決めています。国家としては少しでも多く税金を取りたいため、こんなに長い間使うことはできないだろうと思うぐらい、法定耐用年数は長く設定しているのです。
第1回でも説明したとおり、飲食店は開店時に一番売り上げが上がり、徐々に下がっていく業界です。よって開店時、いかにキャッシュを残せるかが経営の分かれ道と言えます。
多くの経営者は、3千万円でお店を作ると、その3千万円を丸ごと建物附属設備という勘定科目に入れ、15年かけて償却していきます。
しかし、15年間同じ設備でお店を運営することは可能でしょうか?
弊社の美容室は5年目でリフォームしましたが、とても15年持つとは言えないでしょう。
しかし法律上、建物附属設備という勘定科目は法定耐用年数が15年と設定されているため、15年で償却せざるを得ないのです。
ただお店を作った際の3千万円の中には、たとえばエアコンなどが含まれているはずです。エアコンは、建物に埋め込まれているタイプ(下記写真)であれば、建物附属設備の冷暖房設備となり、13年での償却となりますが、
取り外しが可能なタイプ(下記写真)は器具及び備品となり、6年で償却可能です。
では、下記のようなエアコンの場合はどうでしょうか?
これも取り外しが可能です。厳密には「ダクト」を通じているかがポイントで、ダクトが使われていなければ「器具及び備品」となり、6年で償却可能です。ちなみに「ダクト」とは、冷暖房や換気のために空気を送る管のことです。
最終的に減価償却の取り扱いについては会計事務所と相談すべきですが、13年と6年では大きな差が出ることは間違いありません。
特にこの空調系は結構なコストがかかる部分でもあります。それだけに、短期間に減価償却ができるのは大変なメリットですし、上記のエアコンの場合、天井も広くなり、開放感も出ます。
最近この手のエアコンが増えているのは、開放感だけでなく、減価償却をも考えているからかもしれません。
こういったエアコンも含め、見積は大概一括で工事業者から出てきます。それを減価償却対象によって見積を分けてくれと要求することも大事です。
値引きも各々で分けてもらうとよいでしょう。減価償却期間が長い方の値引き額が大きいと、同じ支払金額でも減価償却で計上できる費用にかなりの差が出てくるのです。
正しい減価償却は正しい会計処理でもあります。それを、面倒だから全部建物附属設備にしてしまえ!という考えは非常にもったいない話です。
減価償却は、短く計上していこうと長期にわたって計上していこうと、最終的には同じ金額を計上することとなります。
美容業界は徐々に売り上げが上がっていくビジネスのため、すべてを建物附属設備にしてしまい、長い期間をかけて徐々に減価償却し、利益を長期にわたり圧縮する方法もありですが、飲食業界のように開業したときが一番高い売り上げとなる事業であれば、最初に多くの減価償却を積み上げる方がよいでしょう。
つまり2つ目のポイントは、「減価償却を最大限利用してキャッシュフローを改善しましょう」です。
7年で1,000店舗に店を増やす仕組みを知ると、自分のお店経営が見えてくる
ここでは、第1回で書いた某焼肉店がどうやって7年で1,000店舗を実現したのかについて説明します。
まず1,000店舗まで拡大するには、銀行からの支援なしでは実現できません。
銀行から資金を借りるためには、財務諸表は黒字でなければダメです。つまり、エアコンも天井に埋め込まれる形のお店を作り、減価償却をすべて建物附属設備にしてしまい、1年間で計上できる減価償却費を小さくすれば、財務諸表上、黒字にすることは容易です。
しかし、減価償却費の計上額が小さければ利益が生まれ、税金が多く発生します。第2回で書いたとおり、非常にキャッシュフローに困る事態が発生します。
税金が払えないため、更なる借り入れを行い、新たに出店をし、ドンと売り上げを開店時に上げ、納税する。つまりどんどん借り入れを増やし、どんどん出店をしていかなければキャッシュが回らなかったのです。
その結果、7年で1,000店舗、結局某上場企業に買収されることになったのです。
常にキャッシュに困っても構わないので規模を拡大したい、と言うならば、長い減価償却のお店を作ることなのですが、個人経営の飲食店はキャッシュに困らない健全な経営目指すことが長く経営をする策であり、売り上げの大きい初年度をいかに減価償却させるかがポイントなのです。
中小企業には30万円までの少額資産に対し、300万円まで一気に償却できる制度もあります。そういった制度もきちんと知り、減価償却をどう使っていくかを考え、会社経営を行っていく必要があるのです。
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■プロフィール
森田健太郎
1967年広島県生まれ。日本大学大学院理工学研究科物理学専攻博士前期課程修了後、KDDI株式会社に入社。1年間システムエンジニアを経験し、営業部門に異動。2年後、実績が新聞、雑誌などに多数取り上げられ、注文が殺到。東京支店達成率ナンバーワンに躍進。
1998年、ヘッドハンティングによって外資系ソフトウェア会社であるマカフィー株式会社に転職。1999年に日本でナンバーワンセールスとなり、2000年8月には世界ナンバーワンセールスアワードをハワイで表彰。同年11月、最年少部長に昇進。9四半期連続で目標達成という偉業を成し遂げる。
2001年、独立系ソフトウェアベンチャー企業にヘッドハンター経由で役員として転職。入社してわずか4年で売上を13倍にする。
2006年3月、株式会社グリーンツリーを設立。初年度からホームページを容易に制作できるソフトウェア販売(CMS業界)でトップレベルの会社に躍進させる。設立から現在までずっと黒字経営を続けており、2012年11月にはホームページ累計導入社数が1,000社を超える。
2011年11月、コンビニの5倍もある美容事業に参入し、一号店を3カ月で黒字化させる。
2017年11月現在、ホームページ導入社数は約2,000社、美容室は4店舗、一般社団法人 日本優良品協会 監事なども務める。
