独立・起業して飲食業界に参入しようというのなら、お金のやり繰りはシビアにこなさなければいけません。しかし、経費の削減には限界があります。そこで「節税」に注目。同じ売上を上げていても、個人事業主と法人では納める税金の額に差があることをご存じでしたか?
個人事業主? 法人? 開業前によく考えよう
一般的にビジネスとしての事業なら「法人」、自分一代限りの商売なら「個人事業主」を選べばいいと言われていますが、個人経営の小規模飲食店の場合は、迷うところです。しかし、経営形態の違いによっては100万円単位で、納める税金額の差が生じることもあるんです。少しでも損をしないよう、開業する前にそれぞれのメリット、デメリットを確認して、自分に合った形態を選ぶようにしましょう。
個人事業主と法人の違い
それでは、具体的に個人事業主と法人の形態の違いによるメリット、デメリットを見ていきましょう。個人事業主には、さらに白色申告と青色申告の2つの申告スタイルがあり、ここにも違いがあります。
個人事業主(白)
白色申告は帳簿付けが要らないため、手続きが簡単であることがメリットです。より経営規模の小さな店舗に向いていると言えます。ただし、前年の事業所得が300万円を超えた場合は帳簿付けが必要になってきますし、近い将来、記帳を義務化しようと動きもあります。「帳簿付けがないから楽」というのは、逆に言えば経営が甘くなりがちということ。万一、税務調査が入った時に申告額の証拠がなければ、立地や席数から計算して評価額を出され、本来より多い税金を納めざるを得なくなる、というケースもあるので注意が必要です。また、仕入れなどの際、対外的な信用度が低いというデメリットもあります。
個人事業主(青)
青色申告では、複式簿記で記帳すると65万円の特別控除が適応され、年間300万円までの物品や、生計を一にする家族を従業員とした場合にその給与を全額経費として計上できます。また、赤字が生じた場合、3年間将来の黒字と相殺することができる繰り越し制度も大きなメリット。例えば、初期投資がかかる1年目に200万円の赤字が発生し、2年目で400万円の黒字が発生した場合、1年目の所得税はゼロ、2年目の課税所得は本来400万円のところ、1年目の赤字分を引いた200万円に抑えることができます。一方、対外的な信用度は白色申告よりは高いものの、法人よりは低くなります。
法人
法人の特徴は、社会的な信用があるということ。社会保険や厚生年金にも加入しているため、優秀な人材を有利に獲得することができます。取引先から見た信用度も高くなるため、仕入れをツケ払いにすることも可能になってきます。飲食業界においてうれしいメリットです。また、法人税、法人事業税、法人住民税が発生するものの、事業所得が一定額を超えた場合、法人にした方が納める税金の額が少なくなります。そして、たとえ事業が傾いても、株式会社であれば、経営者は出資の範囲内でしか責任を負わなくてよいので、万一のときも負担が軽くて済みます。
登記費用があるなら法人化
個人事業主よりもメリットが大きい法人ですが、開業時には法務局での登記が必要となり、そこでおよそ25万~30万円の費用がかかります。また、登記が終わるまで1~2週間を要し、登記完了後は、登記簿謄本と開業届等一式を税務署・県・市へそれぞれ提出しなければならないため、少々手続きが面倒。起業時に潤沢な資金がない場合、手間をかけたくない場合には、まずは個人事業主としてスタートし、事業が拡大してきたら法人化を検討するという手もあります。
法人化して節税
法人化には初期費用がかかりますが、税制を活用することで費用以上の貯蓄効果があり、資金や福利厚生の面でも選択肢の幅が広がります。主なポイントを見ていきましょう。
所得税と法人税の税率の差
個人事業主が払う所得税は、所得に応じて税率が5~45%まで7段階あり、一方、法人税は15%と23.4%の2段階のみとなっています。開業したばかりで売上が少ない時期は、所得税の方が税率が低く、有利に思えますが、店が軌道に乗って売上が増え続けると、いずれ所得税が法人税の税率を超えます。さらに資本金が1000万円未満の法人は、法人化してから2年間は免税扱いされるというメリットがあります。そのため、個人事業主から法人への切り替えは、課税所得1000万円が一つの目安と言われています。
給与所得控除を使った節税
個人事業主の場合、売上から経費を引いた所得に所得税等が課税されますが、このとき自分の給与は経費に含めることはできません。一方、法人の場合は、経営者の給与を経費に計上することができるため、法人税を抑えることができます。この給与は経営者個人の所得税等の対象になりますが、ここで給与所得控除が適応されるため、概算経費を引いた後の給与所得で計算されます。つまり、法人化すれば、経営者の給与は会社の法人税と個人の所得税で2重に控除されるメリットがあるのです。
個人事業主と法人では税法上取り扱いが違うもの
主なものとしては、まず退職金です。個人事業主の場合、そもそも退職という概念がありません。あくまで売上で得た利益に所得税等がかかり、その残った資金を貯めて経営者のその後の生活資金にあてます。一方、法人では退職金を経費として計上でき、退職金を受け取った個人にかかる所得税等には、累進税率が高くならない優遇措置があります。また、退職金を支給したことでその年の業績が赤字になった場合には、その欠損金を9年間繰り越す制度があるのも、法人ならではのメリットと言えるでしょう。また、生命保険も個人事業主は経費になりませんが、法人の場合は、経営者だけでなく従業員の分も経費扱いにすることができます。計上できる金額は保険の種類と契約内容によりますが、個人事業主より優遇されています。
売上と生活費が同じなら、どちらが貯蓄できる?
個人事業主の場合、店の売上で得た利益は全て事業所得として課税され、税引き後の利益は全て経営者の貯蓄となります。一方、法人化した場合は、経営者の報酬から所得税等を引いた個人の資産と、法人の利益から法人税等を引いた法人の資産という、2つの貯蓄源があるということになります。例えば、どちらも売上2000万円、経費を1000万円とし、生活資金が500万円かかるとしたら、それぞれ貯蓄にどれだけ回せるでしょうか。仮に600万円に設定した経営者報酬は、法人と個人に所得として分散されるため、法人税等・所得税ともに税率が低くなりました。先述の通り、2度給与分の控除がありますので、税引き後の法人の資金は約310万円、個人の資金は約515万円となり、合わせて約825万円。個人事業主は青色申告控除の65万円は引かれるものの、所得税にプラス個人事業税もかかってくるので、残りは約715万円になります。結果、それぞれ生活資金を500万円引くと、法人を利用する方が、110万円ほど多く貯蓄できることがわかりました。法人の資金は、事業資金や退職資金にまわすことができるので、法人化にするメリットはさらに高まります。
この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント
○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。
○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。
