起業するにあたって、まず最初のハードルとなるのが資金調達です。「いくらあれば起業できるのか」「融資は受けられるのか」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。起業資金を調達するにはさまざまな方法がありますが、必要な資金額はもちろん、個人か法人かによって最適な調達先は異なります。
この記事では、起業に必要な資金の目安や資金の調達方法について解説します。それぞれの方法のメリット・デメリットを把握して、自身に合った資金調達方法を選ぶ参考にしてください。
目次
【状況別】起業に必要な資金の目安
まずは、日本政策金融公庫総合研究所の「2022年度新規開業実態調査」から、開業費用に関する最新のデータを見てみましょう。同調査によると、開業費用の平均値は1,077万円。直近10年間においても、1,000万円前後で推移しています。
ただし、データ全体では「250万円未満」(21.7%)と「250万〜500万円未満」(21.4%)が全体の4割以上を占めていることから、実際には500万円未満で起業を始めている人が多いことがわかります。
参考 日本政策金融公庫総合研究所「2022年度新規開業実態調査」
一般的に、起業資金の内訳は以下のような項目が挙げられます。
資金の種類 | 項目 | 用途 / 金額 |
---|---|---|
設備資金 | 物件取得費 | 土地の購入、敷金、礼金、保証金の支払い等 【賃料の約10か月分】 |
内外装工事 | クロス張り、看板設置費等 【30万円~】 | |
機材 | 調理機器購入費等 【300万円~】 | |
備品 | 店内家具購入費等 【100万円~】 | |
運転資金 | 商品の仕入 | 賃料、材料費、光熱費等 【150万円~】 |
人件費 | 給料等 【100万円~】 | |
宣伝費・維持費 | ネット回線、チラシ作成費等 【50万円~】 |
上記の項目と金額は飲食店開業時の一例です。いずれも事業内容や状況によって変動するため、起業資金がいくら必要かは一概には言えません。事務所や店舗を構えない場合は物件取得費用が不要になりますし、私物の機材を利用するなら設備費を大幅に抑えて起業することができます。
では、具体的にどのような項目が必要になるのか、状況別に詳しく見ていきましょう。
在宅起業の場合
昨今では、Web関係の仕事やオンラインショップ運営などをはじめ、店舗や事務所を持たなくても始められる仕事が増えています。開業資金の中でも多くの割合を占めるのは物件取得費や機材費といった設備資金にまつわる項目。初期投資を抑えて起業したい場合は、在宅起業がおすすめと言えます。
ただし、パソコンや電話、プリンターなどの機材・備品はしっかりと揃える必要があります。例えばWebデザイナーなど専門職の場合は、商品(サービス)の品質向上のために高性能のパソコンやソフトウェアが必要なケースも多く、それなりの予算を見込んでおかなければなりません。
事務所を構える場合
自宅で起業する場合と違い、事務所を構える場合は物件取得費が必要になります。賃料や敷金・礼金などは選ぶ物件によって変動するため、どの物件を選ぶかで起業資金は上振れます。
主な必要設備は作業デスクや電話、プリンターなどの機材・備品です。来客を迎える予定があるなら、来客用の家具・備品も必要になります。事務所として使う場合は基本的には内装工事を行わず、賃貸物件をそのまま活用することが多いですが、士業(税理士、行政書士、社労士等)を始め職種によっては看板の設置費がかかるでしょう。また、事務手続きや登記関連の項目も漏れがないよう注意が必要です。
店舗を構える場合
飲食店をはじめ美容院、雑貨屋、整骨院、接骨院など店舗を構える場合は、在宅起業や事務所を構える場合に比べて物件取得費がかかることから起業資金が高額になる傾向にあります。
例えば、飲食店の場合は一度に多くのお客様を迎えるため、一定以上の物件の広さが必要です。また、ほとんどの場合内外装工事を行う必要があるうえ、調理用の設備や器具、家具やカトラリーなど必要な備品を揃えなければなりません。特に、特殊な調理器具を使用する場合は高額になりやすいでしょう。
また、店舗運営を行う場合、起業後しばらくは売上が立たずに悩むケースは少なくありません。事業が軌道に乗るまで安定した営業を行うためには、最低3か月分の運転資金を準備しておくと安心でしょう。
少しでも初期投資を抑えたい場合は、居抜き物件を選ぶ、内装をDIYで行う、中古の機材を購入するなどして、コストダウンを図ることができます。
個人と法人で必要な資金が異なる
起業に必要な資金は、どのような形態で起業するかに加え、個人か法人かによっても変わってきます。特に、法人の場合は法定費用が必要になりますが、設立する会社の種類によって必要項目が異なるため、注意が必要です。
個人事業主の場合
個人事業主が起業する場合、基本的に費用はかかりません。屋号を決めて(なくても可)税務署へ開業届を提出するだけで、起業することができます。例えば、自宅で私物のパソコンを使ってWeb関連の仕事を行うなら、初期費用をほとんどかけずに起業が可能です。
ただし、起業時に定期的な取引先が確保できていない場合は、収入がない期間を想定して十分な運転資金や生活資金を準備しておく必要があるでしょう。
法人の場合
法人として起業する場合、上記で解説した開業資金のほかに、登記費用が必要になります。株式会社の設立に必要な費用は20万円程度。内訳は以下のとおりです。
<内訳>
・定款認証
認証手数料 約3万円
謄本代 約2,000円
印紙代 紙の場合4万円(電子認証の場合は不要)
・登録免許税
資本金の額×0.7%(この金額が15万円未満の場合、一律15万円)
さらに、こうした手続きを税理士や司法書士に依頼した場合は10万円〜20万円の支払いが発生します。
資本金については1円からでも設定可能ですが、少なすぎると取引先からの信用が低くなるため、ある程度の金額を積んでおくことが望ましいです。資本金は実質的な運転資金であり、その平均額は約300万円と言われています。
合同会社を設立する場合も登記費用は必要になりますが、株式会社と比べて安く済みます。合同会社の場合は認証手数料が不要で、登録免許税の基準値が15万円ではなく6万円となっています。
始めは経費を削減して必要な起業資金を抑えよう
どうせなら起業のタイミングで一気に環境を整えたいと考える方は多いでしょう。しかし、起業時だけでなく起業後も何かと経費はかかるもの。最初からすべて整った状態で始めようとしてしまうと、後から修正が難しくなってしまいます。
また、事業が軌道に乗るまで収入は不安定になりがちです。経費の使い道が本当に必要なものかどうかを見極め、最初のうちは経費の削減を心掛けましょう。
例えば、賃貸ではなく自宅やシェアオフィス、バーチャルオフィスで起業すると固定費を大幅に削減することができます。あるいは、事業が成功するまでは副業としてスタートする方法も有効です。
法人の場合は、まず手続きや費用負担が少ない合同会社として起業するのも一案です。後から株式会社へ変更できるため、徐々に事業規模を拡大させていきましょう。
自己資金が不足している場合の起業資金の調達方法
仕入れや設備投資が不要な場合は自己資金だけで起業できるケースもありますが、多額の初期費用がかかり自己資金が不足している場合はさまざまな方法で資金調達を行う必要があります。ここでは、以下の5つの方法を解説します。返済の計画も視野に入れて、資金調達に取り組みましょう。
1.銀行融資
メリット | デメリット |
---|---|
・多額の資金を調達できる ・経営に関与されない ・返済実績を積めば、より多くの融資を受けられる | ・利息も含めて期限内の返済が必須 ・審査が厳しい ・担保や保証人が必要 |
銀行融資は審査が厳しい反面、確実に返済を実行していけば銀行側からの信頼を深めることができ、より多額の融資を借り入れできるようになります。将来的に事業を拡大させていきたいと考えている方にはおすすめです。銀行融資にはプロパー融資、信用保証付き融資、ビジネスローンの3種類があり、それぞれ審査の方法などが異なります。
一方、初めて融資を受ける場合や個人の場合は、日本政策金融公庫の融資をおすすめします。日本政策金融公庫は民間の金融機関の補完を目的とした政府系金融機関で、国民一般を対象に資金調達を通じた創業支援を行っています。民間の金融機関よりも金利が低く、融資実行までが早い、担保・保証人不要で融資が可能といったメリットがあります。
ただし、日本政策金融公庫は民間の金融機関よりも面談が重要視されるため、融資を受けるには起業への熱意や真摯な姿勢が求められます。
2.家族・親戚からの借り入れ
メリット | デメリット |
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・手続きが不要 ・利息が不要 ・すぐに借りられる | ・多額の借り入れは難しい ・トラブルに発展しやすい |
銀行融資の審査が通らなかった場合や少額になってしまった場合、または銀行から融資を受けるにあたって30%程度の自己資金を必要とする場合、家族・親族から資金を借り入れる方法もあります。家族・親族からの借り入れは、審査もなければ利息も不要、返済日に遅れてもリスクがない、と一見メリットが多いように感じるかもしれません。
しかし、家族・親族間の借り入れはそうした馴れ合いが原因で後にトラブルに発展してしまうケースが少なくありません。これまで築き上げてきた信頼関係を維持するためには、親族間であっても金銭消費賃借契約書を結び、返済計画を明確にしておきましょう。
なお、家族・親族からの借り入れは贈与税に注意が必要です。定期的に返済をしていない場合、支援額が年間110万円を超えた場合は、贈与税の課税対象となります。
3.投資家からの出資
メリット | デメリット |
---|---|
・返済が不要 ・利息が不要 ・経営に関するアドバイスがもらえる | ・経営に関与されやすい ・多額の資金調達は難しい ・投資家のためのExitの時期を念頭に事業活動を行う必要がある |
個人投資家やエンジェル投資家と呼ばれる人から出資を受ける方法です。まず資金の返済が不要という点が大きなメリットになりますが、発行する株式の保有率によっては経営権を握られてしまう可能性があります。
また、ベンチャー企業の場合、VC(ベンチャーキャピタル)から出資を受けるという選択肢もあります。VCの目的は会社を上場させて売却し利益を得ることです。個人投資家よりも多額の出資を受けられるので会社の早期成長が見込めますが、経営実権を握られたり上場への圧力が強くなったりすることも。
法人にとって、株式保有率は経営を左右する重要なもの。さまざまなリスクを把握したうえで出資を受ける必要があるでしょう。
4.クラウドファンディング
メリット | デメリット |
---|---|
・誰もが気軽に資金調達できる ・リスクが低い ・宣伝効果がある | ・手数料がかかる ・資金調達額に制限がある(1年間で1億円未満) ・資金調達が実現しないケースもある |
資金調達の新たな方法として昨今注目を集めているクラウドファンディング。その種類には大きく分けて、購入型、寄付型、金融型の3つがあります。
一般的に知られているのはプロジェクトが成功したら支援者にモノやサービスをリターンする「購入型」ですが、起業資金の調達には個人投資家から金銭を募り金銭でリターンする「金融型」がよいでしょう。この仕組みを利用すれば、これまでリーチできなかった少額取引の個人投資家と接触できる絶好の機会となります。また、魅力的な事業内容であれば、会社の知名度アップにも貢献するでしょう。
一方でデメリットとしては、目標に到達しなければ資金調達が実現しないことや、アイデアを公開することへのリスクが挙げられます。
5.自治体の助成金・補助金
メリット | デメリット |
---|---|
・返済が不要 ・信用度の向上 | ・審査に時間がかかる ・一定期間、収益報告書を提出する義務がある |
基本的に返済が不要の自治体の助成金・補助金は、起業の際に資金繰りを安定させるために有効な手段です。さらに、助成金・補助金の審査が通れば社会的な信用度が高まり、後に銀行融資を受ける際にプラスとなるでしょう。
起業時に使える助成金・補助金の種類は、自治体のほかにも経済産業省や厚生労働省関連のものなど数が多く、対象や申請期間はさまざまです。起業を支援してくれる有難い資金ですが、それらを調べたり審査書類を準備したりする時間と手間がかかるのが難点と言えます。
助成金・補助金は応募時に提出した事業計画書通りに実行した後、報告書を提出して受理する流れとなっています。申請から入金までの時間が長く、起業資金として期待するのではなく、開業後の運転資金として考えておくべきでしょう。
起業資金の調達を成功させるには事業計画書が重要
事業計画書とは、ビジネスの内容や経営の見通しを詳細に可視化した書類です。起業を進めるための指針となるほか、融資を受ける際の重要な判断材料となります。
金融機関や投資家は、その会社に将来性や計画性があるか、起業してどれだけの収益を得ることができるか、この事業計画書をもとに融資の審査を行います。頭の中でどれだけよいアイデアや戦略を練っていても、それらが事業計画書に落とし込まれていなければ融資につなげることはできないでしょう。個人で事業計画書を作成する場合も、整合性や説得力があるかどうかを専門家にチェックしてもらうことをおすすめします。
また、長期的な事業計画書を作っていれば、起業後も適切に計画を見直し、軌道修正することができます。事業計画書の書き方については、以下の記事を参考にしてください。
関連記事 事業計画書の書き方とは?目的やメリットについて解説
起業資金の調達でお困りの方はcanaeruにご相談ください
起業資金の平均は1,000万円と言われていますが、個人か法人か、自宅か店舗か、さらには事業内容によっても必要な資金額は変動します。自己資金で賄える場合は問題ありませんが、不足している場合は銀行融資などを利用して起業資金を調達しなくてはなりません。
まずは事業計画書から必要な資金額を算出し、自身に合った調達方法を選びましょう。今回ご紹介したように、融資を受けるためにはいくつか押さえるべきポイントがあります。起業資金の調達を一人で進めるのが不安な方は、この機会に専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
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ライター:木下沙織
ホテルの営業企画として販促・企画・イベントなどのPR業務に従事した後、フリーランスへ転身。ライティングやデザイン業務などのWEB仕事をメインに活動中。現在は情報セキュリティ・農業・地域メディアなどジャンルレスに執筆を担当。
この記事の監修
株式会社USEN/canaeru 開業コンサルタント
○会社事業内容
IoTプラットフォーム事業・音楽配信事業・エネルギー事業・保険事業・店舗開業支援事業・店舗運用支援事業・店舗通販事業。
○canaeru 開業コンサルタント
銀行出身者、日本政策金融公庫出身者、不動産業界出身者、元飲食店オーナーを中心に構成された店舗開業のプロフェッショナル集団。
開業資金に関する相談、物件探し、事業計画書の作成やその他の店舗開業における課題の解決に取り組む。
